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コラム

農林水産分野のイノベーション

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国立大学法人北海道大学
産学連携本部 荒磯恒久

1.イノベーションとは


イノベーションとは
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 「技術革新」と訳されてしまったが実はもっと広い意味を持つ。中国では「創新」と訳されるが、これは語源からいって正しい。専門的な議論はおいて、ここでは「もの」や「考え」の新しい組み合わせ(新結合)で経済発展をおこすこととしよう。 イノベーションの例として駅馬車から鉄道への変化があげられる。

 1830年にリバプールとマンチェスター間56kmを結んだ鉄道は瞬く間にヨーロッパとアメリカに広がり、1869年にはアメリカ大陸を横断するに至った。鉄道から得られた利益は鉄道会社より、 はるかに産業界に大きかった点がイノベーションの本質を示している。

 イノベーションには新技術がポイントになるケースが多くそれらの技術が特許化されていることも事実であるが、それを経済活動に結びつけなければイノベーションとは言えない。

2.農業分野におけるイノベーションと知的財産


テクノロジーを結集した生産イノベーションの例
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 北海道で、おいしいお米を作ることは北海道農業の悲願でもあった。道立中央農業試験場(現地方独立法人北海道立総合研究機構)が行った取り組みは、農業生産におけるイノベーションと言える。  キーテクノロジーは、(1) 衛生リモートセンシング、(2) 品種改良、(3) 食味の分析の3点に集約できる。リモートセンシングによる稲のたんぱく質マッピングにより、地域の生産者は競って品質向上させた。 品種改良がさらに地域のコメの品質を上げ、食味分析法の確立により「商品」の信頼性を高めることとなった。

 農業分野のイノベーションは3段階に分けて考えることができ、その特徴は、次のようになる。
段階1:生産におけるイノベーション
(1) 広域イノベーション:生産者のアライアンスが必要。(複数生産者による技術の共有)
(2) 農業は複合技術:一つの技術革新が全てを変えることは難しい。(・品種・栽培技術・選別技術・農業工学的技術等)
(3) 多様な地域特性(気候、土壌、水質、害虫、病気等)。→ 技術革新の利用はその地域に規定される。

段階2:作物の商品化・流通・販売におけるイノベーション
この段階でのキーテクノロジーには、次の要素が考えられる。(1) 選別技術、(2) 鮮度保持・鮮度測定技術、(3) 貯蔵技術、(4) 流通・販売戦略

段階3:複合産業としてのイノベーション
複合産業としては次のような分野がある。(1) 加工食品、(2) 機能性食品・機能性素材、(3) 健康食品・化粧品、(4) 医療との融合
 知的財産の活用方法もこれらの段階によって変わってくる。その1に示した「生産におけるイノベーション」では、ものづくり系の知財活用法とは異なり、むしろ学会発表などで公知とし地域全体が活用できる形にして、 地域の生産力と品質の向上を図ることが有用な場合も生じる。しかし、品種改良など特許化すべきものはもちろん存在する。段階2、段階3で上げた要素や分野は、ものづくり系の知的財産活用方法が有効であり、 それによって地域ブランドの確立や製品としての優位性が保証される。

3.水産分野におけるイノベーションの例


たんぱく質マッピング
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 産学官連携による地域イノベーションの動きが活発になっている。文部科学省の施策「イノベーションシステム整備事業」では、大都市を中心とするクラスター形成事業とともに、 全国各地の中堅都市を核としたイノベーション推進事業が取り組まれている。函館、弘前、愛媛、宮崎、沖縄では水産資源を活用した地域イノベーションが進展している。各地の特長を概括すると以下のようになる。

函館: 海藻に含まれる抗酸化物質(フコイダン等)の活用。GISによる魚群の計測・予測技術。食の品質評価・保証技術。ガゴメコンブ(フコイダンを多く含む)の多様な商品開発。
弘前: サケ氷頭に含まれるプロテオグリカンの利用技術。機能性食品の開発と創薬。
愛媛: 温暖化対応型真珠養殖技術。高度管理型ご類養殖技術。未利用バイオマスの資料化技術。
宮崎: チョウザメの養殖技術。チョウザメに含まれるカルノシン(抗ウイルス、免疫賦活、虚血性心疾患予防)の活用。チョウザメ製品の商品化。
沖縄: シガテラ毒検出法の開発。新規海藻の養殖技術。もずく・海ぶどうの安定生産技術と衛生管理技術の開発。

 これらの開発テーマを見ると、前項にあげた農業分野のイノベーションの段階との類似性が見られる。水産分野でも、(1) 生産のイノベーション、(2) 商品化(流通・鮮度保持等を含む)のイノベーション、(3) 機能性食品や創薬などの複合産業化に分けることができる。次ページにこれらの技術をマッピングすることを試み、イノベーションに向けた進展の方向性を考えた。

 まず、横軸には「生産」→「流通」及び「素材開発」→「ブランド化・知財化」→「複合産業化」を置き、複合産業化をイノベーションの一つの目的とした。これは1次産業の6次化である。縦軸には「研究開発」「ビジネスコンセプト」「ビジネス化」を置き、ビジネス化をイノベーションの目的とした。全ての取り組みが「生産における研究開発」から「複合産業によるビジネス化」の方向に進展するものではないが、概ねイノベーションの方向としてこの流れが見て取れる。

水産資源活用分野 技術マップ
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 イノベーションが新しい「もの」と「考え」を結合し、経済発展をおこすものという見方から、農林水産分野のイノベーションの方法と方向について実例をもとに考えてきた。持続性のある社会を築きあげていくためには農林水産分野のイノベーションは必須である。 新しい技術、新しいビジネスを見据え、農林水産分野の持つ広く深い可能性の芽を開花させることが、我が国の将来にとって極めて重要となる。

プロフィール:荒磯恒久


筆者近影
 1978年北大大学院理学研究科化学専攻博士課程修了。北米でポスドクの後、1983年北から海道大学において電子科学研究所、先端科学技術共同研究センター、創成科学共同研究機構、 産学連携本部を順次勤務。2001年北海道産学官連携研究会HoPEの設立に携わり、現在運営委員長。2005年NPO法人産学連携学会会長。2007年文部科学省地域科学技術施策推進委員会委員。専門は生物物理学。

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